「第3回 きらら文学賞」受賞作発表 第2回受賞作発表(2008年3月号)から昨年5月末日までに101編のご応募をいただきました。「きらら」編集部で選考の結果、右記のように「第3回きらら文学賞」として受賞作と優秀作を決定しました。受賞作については今夏単行本として小学館より刊行の予定です。
受賞作『コンディション・ブルー』瀧井耕平1982年滋賀県生まれ。立命館大学卒、学校講師。優秀作『ひなた屋ドーナツ』井上佳穂1965年京都府生まれ。グラフィックデザイナー。

 受賞作の『コンディション・ブルー』は地方の高校生がバンドを結成して最後は思いもかけぬ場所でライブを行なうという青春小説ですが、バンドをめぐって展開する人間関係や恋愛模様が、ほのぼのとしたユーモアと軽やかな文章で描かれており、総じて編集部員の好感を得た作品でした。バンドや登場人物のネーミング、笑いの小ネタを挿入する間合い、「さだまさし」や「スピッツ」などの登場のさせ方、また各章の最後に持ってくる決めゼリフなどに、書き手としての生来のセンスが感じられました。主人公に関する自意識過剰気味な描写はやや気になるものの、逆にそれが「妄想高校生」の日常をうまく戯画化しているといえなくもありません。ただバンドが初めてのライブを行う物語のクライマックスについては、書き込みがかなりあっさりしており、物語が早々にたたまれた印象はぬぐえず、不満が残るという意見は多く出ました。とはいえ青春群像劇として、読む者を終始楽しませてくれる書きぶりはじゅうぶん評価できると考え、受賞作と決定しました。

 優秀作の『ひなた屋ドーナツ』は中学生の女の子を主人公とする成長物語ですが、世間が抱きがちな先入観を持つ主人公が、彼女の周囲で起こるこれまた世間で起こりがちな出来事を経験しながら、物語の進行とともにその先入観がしだいに切り崩されていく(同時に読者も予断をひっくり返されていく)という書き方がとても巧みでした。主人公のいびつな自意識を「物の怪」と呼んだり、「ぎったんばったん」という擬音でそのいびつさを表したり、細部まで注意の行き届いた表現も随所に見られ、感心させられました。しかしエンディングに向かって登場人物たちの背後の事情が開陳されていくくだりが性急で、要素を詰め込みすぎているのが瑕疵に感じられました。主人公が成長し発見していく過程を表現する素晴らしい部分がいくつもある一方で、最後にミステリーの謎解きのようなまとめを入れた点に疑義も出て、優秀作にとどまりました。

 今回の選考で最終候補まで残った作品は以下の通りです(応募順)。
  • 「タイムカプセルをあけたら」 三田かず子
  • 「下弦の樹」 本間 一
  • 「『ツアーで行くエジプト』療法」 コローン麻紀
  • 「アンサンブル」 杏鈴みき
  • 「明日のタペストリー」 加藤志保美
  • 「デイムーンと歩いて」 遠藤保宏

 小説に必要な要素は、ドラマ、スタイル、フィロソフィーという3つに分けられると考えられます。まず「ドラマ」とは、物語そのもののこと。これはプロット、登場人物、構成などでいかに読者を楽しませるか、その全体的な工夫です。次に「スタイル」、これは文体といわれるものですが、音楽に心地よい声があるように、小説にも心地よい文章があると考えてみてください。具体的には、言葉選び、レトリック、文章の長短、句読点の打ち方など、読み手に読みやすい(あるいは読みたい)と感じさせるかどうか、そういう文章が書けているかどうかが、小説の成否につながります。最後に「フィロソフィー」、これはそのまま訳せば哲学ですが、いってみれば小説に現れる書き手の人間観、人生観、死生観、世界観のことです。「感動」と呼ばれるものにつながる小説の重要な要素となります。

 世にすぐれているといわれる作家、広く読者を得ている作家の小説は、かなりの程度でこれら3つの要素を備えていると考えられます。「きらら文学賞」も、世評の高い作家、人気作家となりうる書き手を求めています。今後もご応募くださる際には、ぜひこの3つの要素が自分の作品に備わっているかどうかを考えてみてください。  右に挙げた最終候補作品は、この3つのうちいずれか1つが不足している作品でした。さらに素晴らしい作品を書くために、「読み手に心地よく読んでもらい、面白いと感じさせ、さらに深い問いかけをする」、そういった作品をぜひ仕上げてみてください。

 今回は、応募作品をじっくりと読ませていただくために、選考結果のご連絡が遅れましたことをお詫びいたします。

 今後とも「きらら文学賞」に多くの方がご応募くださって、よい書き手と出会えますことを編集部一同お待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします。(応募要項はコチラ)

 

「きらら」文学賞受賞作

2006年1月号発表
2006年5月、単行本として刊行。「坂本ミキ、14歳。」と改題し2008年10月小学館文庫で刊行。

2008年3月号発表
2008年2月、単行本として刊行。







(C) Shogakukan Inc. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。