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弱い立場の人に届けたい物語

きらら……『よるのばけもの』は、中学生の主人公あっちーが化け物に変身して、クラスみんなからいじめられている矢野さつきと、夜の校舎で出会い、交流を深めていく物語です。構想のきっかけから、お聞かせください。

住野……まず「夜になると、僕は化け物になる」という一文がありました。内容もタイトルも決まっていませんでしたが、ここから物語を始めようと思いました。
 変な言い方になるのですけれども、デビュー作の『君の膵臓をたべたい』が、予想外に売れてしまいました。あまりに反響が大きくて、まるで自分のことじゃないような。「住野よるって誰だ?」と、違和感を覚えていました。自分のなかでの「住野よる」との乖離と、「夜になると、僕は化け物になる」という一文が重なって、構想がまとまっていきました。
 もうひとつ、今作では弱い立場に立たされている子の話を、描きたいと思いました。2作目の『また、同じ夢を見ていた』の読者の方からいただいたお手紙に、「私も主人公の奈ノ花のように嫌われています」と書かれていました。そして「住野さんの本を逃げ場所にしています」というふうにも。その言葉が、すごく印象に残っていたんです。
 デビューから2作で、多くの方に受け入れてもらえる作品を出せました。次の書き下ろしは、何か、そういう弱い立場にいる子たちに届くものにしようという気持ちがありました。

加藤……幅広い読者に向けたものではなく、特定の誰かへの物語という意識ですね。

住野……そうです。僕自身これまで生きてきて、強い立場だった経験が、ほぼありません。どうしても立場の弱い人たちのことを考えます。

竹田……学校でも、ですか?

住野……ええ。子どものとき、勉強も運動も人間関係も、あまりうまくできませんでした。『よるのばけもの』は、「みんなに読んでほしい」という以上に、読者さん一人一人に、個人的に返信するような気持ちで書きあげました。

人気の理由はたくさんある

竹田……まずは私の感想から。住野さんの作品は前2作とも拝読していて、うちの店でもすごく売れています。『よるのばけもの』も、期待して読ませていただきました。最初に思ったのは、「すごい挑戦作だな」と。
『君の膵臓をたべたい』は化け物みたいなセールスになっており、住野さんご自身に、熱心な若いファンが増えました。いまの出版業界は作品単位で隆盛が移り変わっていくのがトレンドで、作家さん個人で若いファンを抱えるのは、難しいです。そんななか住野さんは貴重な存在だと思います。けれど住野さんは3作目にして、いい意味でこれまでの作風を、裏切りました。これはすごい勝負です。
 特定の誰かに訴えかける強いものが、たしかにあります。この物語を欲している読者は、必ずいます。前2作にも増して、しっかり売っていかなくちゃいけないと、あらためて責任を感じています。

住野……ありがとうございます。「挑戦作だ」というご意見は、他社の担当さんからも聞きました。いろんな意味で、双葉社さんは勝負をかけてくださったのでしょう。企画を通してくれた担当さんに感謝します。

加藤……うちの店でも、住野さんの小説はびっくりするぐらい売れます。うちは田舎の書店なので配本は少ないほうなんですけど、本当に特別。ご新作の『よるのばけもの』には竹田さんと同じく、私も期待していました。
 面白かったのはもちろん、全体的に深く共感しました。主人公のあっちー君とは、だいぶ世代が違いますが、私自身もあまり周囲になじめなかったり、人とうまく接することができなかったりします。本作に限らず、住野さんの作品全般に言えることですが、私のことを書いてらっしゃるのかしら? なぜ私のことをご存じなのかな? と思うところが、たくさんありました。そういう意味でも、驚かされた小説です。

住野……大人の方にも、そう言っていただけるのは励みになります。

竹田……『よるのばけもの』は、謎解きをしながら読んでいく楽しみもありました。主人公のあっちーと矢野さんは、夜の校舎で出会い、少しずつ心が通じ合っていきます。最初、もしかしたらあっちーと矢野さんは同一人物で、どちらかの心の対話の物語なのではないかな? と、深読みしていました。

住野……なるほど。面白い解釈ですね。

加藤……私も他にたくさん感想があったのですけど……すみません、緊張して忘れてしまいました(苦笑)。

読者とお互いに成長したい

住野……僕の小説は、本をよく読まない人が好きになる、と批判されてきました。でも『よるのばけもの』は、特にプロの作家さんたちに褒めていただけるようになりました。例えば島本理生さん、彩瀬まるさんは文芸誌にも、素敵な書評を書いてくださったそうです。

加藤……批判があるとおっしゃいましたが、書評家の方や書店員の間では、住野さんの評価は高いですよ。

住野……そう言ってもらえると、本当にありがたいです。僕は中高生の頃に、西尾維新さんのインパクトを受けた世代です。西尾さんの作品も一部では批判されていました。あんなに面白いのに、どうして? と熱心なファンだった僕は、ひどく傷ついたんです。住野よるの小説が好きだと言ってくださる読者さんも、同じような気持ちがあると思うんですね。作家の方々や書店員さんなど、本のプロの方々に僕の小説が褒められるのは、読者さんが安心してくれるんじゃないかと、二重構造で嬉しいです(笑)。

加藤……読者さんのことを、本当に大事に考えられているのですね。

住野……すごく大事な存在です。『よるのばけもの』を書いているとき、僕は「読者さんたちと一緒に成長したい」と意識しました。
 今回の話は、前2作で僕のファンになってくださった人には、もしかしたらわかりにくい物語かもしれない。だけどその人たちも、受け入れてくれるようになったらいいなと思いました。書くほうも、読むほうも「お互い、いろんなものを受け入れられたら、もっと楽しいよね?」と、語りかけるような気持ちでした。
 単純に言うと、これまで以上に、読者の方々に寄り添いたいと願いました。
 僕は作家のスターには、なれません。作家さんのなかには、神々しい大スターみたいな存在感の人がいますよね。僕は無理です。
 カリスマにはなれないから、せめて寄り添いたい。その欲求が、『よるのばけもの』では色濃く出ました。

おさまりのいいラストはウソになる

竹田……主人公のあっちーは、これまでの住野さんの作品のなかでは、おそらく敵側の立場だった人ですよね。だけど彼を敵だと線引きしてしまうのは、誰なのか? と。結局は私自身じゃないかという問いかけをされている作品だと思います。

加藤……若い人にとって、とても大事なメッセージがこめられていますね。

竹田……線引きを超えていくために、私たちは何をしなくてはいけないのかを、考えさせてくれるメッセージがあると感じました。
 住野さんの言われたように、『君の膵臓をたべたい』からの読者の方には、咀嚼しきれない部分があるかもしれません。けれど「これって、どういうことなのかな?」と、自分のなかで意味を回収していく深みがあります。小説はわかりやすいだけじゃない、わかりにくいものにも魅力があると、再発見させてくれる作品です。

住野……深く読みこんでいただき、感激です。

きらら……あっちーが化け物に変身する理由が一切、明かされないところも印象的です。化け物という不条理な存在と、ささいなきっかけでいじめが起きる不条理が、対比構造になって、物語の強さが増しています。

住野……あっちーが変身する理由は、描くつもりはありませんでした。一応、化け物が何なのか、僕の頭のなかでは決まっています。
 学校の教室の隅っこにいる、誰かの創造性が夜に、形となった姿です。

 僕自身、学校生活はほとんど楽しくありませんでした。学校から帰ったら部屋にこもって、文章を書いたり本を読んでいました。そんな僕を知っている人は、いないんです。同じように誰にも知られない世界を創造している中高生は、たくさんいるはず。そういう子たちは、きっと夜に化け物に変わり、どこかをさまよっている……というイメージを持っていました。

竹田……そうだったんですね。読み返すと、また化け物の見え方が深まります。

住野……あと、化け物は僕の中2病が爆発しただけとも言えます(笑)。

加藤竹田……あははは。

加藤……ラストも、読者に想像を委ねられているというか、ちょうどいい感じに説明が省かれていますね。続編が期待できます。

住野……よく言われますが、この話は本当に終わりです。続編は、ありません(笑)。あっちーと矢野さんが付き合って、クラスみんなが仲良くなる、みたいなハッピーエンドにも、しませんでした。そっちのほうが小説としてのおさまりはいいんでしょうけど。あっちーが矢野さんにしてきたことが、全部ウソになるような気がしました。現実の世界で、あっちーみたいな行動を重ねてきた子が、同じラストを迎えたら、大団円にはならないと思う。読者の方から「あっちーは、これから地獄だろうな」という感想もありました。その通りでしょう。
 だけど、先がどうなったって、あっちーは矢野さんに対して、ああしようと決断したのです。自分が許されたくてやったわけじゃない。訪れるかもしれない悪い未来も、彼は受け入れなくてはいけません。他の人から見たら、地獄になるかもしれない決断が、あっちーにとってはとても大きな前進の一歩でした。フィクションの物語だけれど、あっちーの意志はウソにしたくないという思いをこめて、今回のラストを書きました。

辛い自分を助けるのは大人になった自分

住野……『よるのばけもの』の発売直後、読者の方がTwitterで「中学の時のあいつらも、あっちーだったのかな」と呟いていました。その方も学生時代、いじめられていたようです。「いまになれば、あいつらにも理由があったのかも、って思える」と、続けて呟かれていました。それを読んで、泣きそうになってしまいました。
 僕の小説によって、悪い記憶がほんの少し、納得できる記憶に変えてもらえたかもしれない。小説家冥利に尽きます。

 自分で経験したことだからわかりますが、学生時代に辛かった自分を助けるのは、大人になった自分しかいないんですよね。その手助けを、小説でできたとしたら、こんな喜ばしいことはありません。

きらら……素敵なお話です。では書店員の方に、メッセージをください。

住野……僕はいつも「こういうふうに小説を受け取ってもらいたい」と思っていることがあります。僕の本を、完全な娯楽──マンガを読むとか、スマホをいじるのと同一線上に、置いてほしいです。身構えて読むような、特別な存在じゃなくて、読者さんの側に寄り添っているものであればいいなと。その気持ちが『よるのばけもの』は、特に強く出た作品だと思います。シンプルに「本って面白いな」と感じてもらえたら嬉しいです。

 

(構成/浅野智哉)
 

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