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テレビに出るのは小説執筆のための潜入取材

きらら……『成功者K』、面白かったです。芥川賞を受賞して一躍人気者になった主人公Kが、出会う女性と次々にセックスしていきます。男子読者の多くは爆笑するであろう内容でした。

羽田……いやぁもう、これだけやったら笑うしかないですよね。嬉しいご感想です。

吉野……僕は爆笑はしなかったんですけど、面白く読ませていただきました。読みながら、ずっとハラハラしていました。Kみたいな生活が、いつまでも続くわけないし、いつか破綻しちゃうんだろうなと。どこがターニングポイントになるのか、大阪のファンの女性がキーになるのか? と考えつつ読んでいたら、ラストのほうは急展開で。本当に驚きました。

羽田……展開の面白さを読み取っていただけるのも、嬉しいですね。

江連……私もいい意味で驚きました。『スクラップ・アンド・ビルド』とはまったく毛色の違う作品でしたが、こういう小説も書かれるのかと。女子目線で見たら、どうなんだろうっていう話ですが、私は大好きです。

羽田……女性目線でと言われると、ぎくっとしますね(笑)。好きと言われるとホッとします。

江連……最後のほうは、フィクションと現実がないまぜになっている感じで、怖かったですね。どうなっちゃうんだろう……という不安に引きこまれて、一気に読みました。

吉野……タイトルの『成功者K』の成功は、性交と掛けているんですね?

羽田……もちろん、掛けています。

吉野……ああ、やっぱり。宣伝の惹句にも堂々と、性交の文字が書かれていますものね。

羽田……最初はセックスとか性行為とも書いてたんですけど、このタイトルなら「性交」にしなきゃいけないなと、全部書き直しました。理解していただけて良かったです。書店業界の方は、さすがに気づいてくださいますね。

吉野……今回の小説は、芥川賞の受賞後に構想されたのですか?

羽田……そうですね。芥川賞を受けたのは2015年の7月でした。直後にNHKのニュースに出て、次に『王様のブランチ』に出ました。芥川賞の受賞者はだいたいそのぐらいで、テレビ出演はひと区切りになります。それで本が売れて万々歳という。でも僕の場合、バラエティー番組などから、ちょっと変な出演依頼が続いたんですね。ぜんぜん本の紹介じゃない内容なので、編集者は「どうしますか?」という感じでしたけど、ほとんど断らずに出ました。そうしたら、世間の反響が大きかったんです。普通に歩いてるだけなのに、街で声を掛けられたり、本の売れ行きも伸びました。12年、小説家をやってきて一度も経験してないことが、テレビに出た翌日に起きました。それが新鮮で面白かったんですね。これは小説を書いているだけでは、わからない世界があるんじゃないかと。潜入取材のつもりで、テレビに出るようになりました。でも2015年の秋ぐらいからは露出を抑えるつもりで、ギャラを高く設定したんですけど、それが通るようになっちゃって。

江連……なるほど、始まりは次の小説に活かすための取材というお気持ちで。

羽田……そうですね。勘違いされやすいのですが、実際の経験を書いているのではなく、こういう小説を書こうと思ってから、取材として色々経験します。『「ワタクシハ」』も、就活小説を書こうと思って、就活を始めました。書きたい題材を決めて、そのために壮大な取材をしています。芸人さんのネタ探しに似ているんじゃないでしょうか。

江連……羽田さんもKのように、実際の生活では帽子とマスクが必須になったんですか?

羽田……ロケで地方に行くときなどは、そうでもないですけど。自宅近くを歩いてるときは、やっぱり帽子とマスクはしてますね。

吉野……ほかにも羽田さんの実体験が出ていると思う場面は、いくつもありました。請求書を書いている場面などは、ご自身のものですよね。

羽田……はい。僕は事務所に入ってないし、番組の出演スケジュールとか、お金の管理は全部、自分でやってますからね。

吉野……成功者なのに、地味な作業を自分でされているところの対比が、面白かったです。あと男性の実感に即した言葉も、刺さりました。「男は女の精神性とは関係なしに相手の身体だけを貪ることができるが、女のほうもまた、男の精神性とは関係なしに、一方的な会話で相手を人形のように扱いヤり捨てられる動物だとKは思うようになった」……など。

羽田……ははは。そういう細かい部分は、たしかに僕自身から出てきたものでしょう。

作品に興味を持ってもらえればよし

きらら……いろんなところで聞かれる質問だと思いますが、『成功者K』の話は、どこまでが事実なんでしょう?

羽田……どこからどこまでが事実というより、テレビなどのメディアを通して、世間的に認知されている自分の情報を入れこむことを、すごく意識しました。当然、Kと実際の自分とは違うんですけど。みんなが「羽田圭介の実際の姿だ」と思っているだろう描写を、意図的に、無数にちりばめています。そうすることで現実の話なのか、フィクションなのかわからない、曖昧な世界をつくっていこうと考えました。もちろん、そういう作者に関する情報をまったく知らなくても楽しんでいただけるような小説にはなっています。

江連……本当に羽田さんはファンの女性と次々にセックスしていたと、勘違いする人もいそうですね。

吉野……実際に、そういう作家だと誤解される怖れは、なかったんですか?

羽田……ないとは言えません。だけど『成功者K』は、あえて成功者の虚像を前面に出していくのが、本のためにはいいのかなと思いました。今回、密着24時の宣伝動画を作ったり、僕と美女をモデルにした大型の宣伝スタンドポップを作ってもらいました。メディア向けの宣伝文には「いきなりテレビに出まくり、寄ってくるファンや友人女性と次々性交する。」……とか、書かれています。版元には、これまでは守ってもらう立場だったわけですけど、今回は身内から晒し者にされているような扱い(苦笑)。普通の小説家なら、さすがに宣伝文を修正すると思うんですけど、テレビ業界や広告業界の人たちと会ってみて、それではダメだなと学びました。僕のちょっとのストレスぐらいで、世の中の人が『成功者K』に興味を持ってもらえれば、それでよし。版元の人たちも僕を陥れようとしているのじゃなく、多少なりとも本が売れるためにやってくれるのだとしたら、僕の誤解を受ける怖れなど犠牲にして、乗っからせてもらいます。そういう姿勢は、売れる前はなかったことですね。

やりたいことはデビュー作から変わっていない

きらら……今作は、成功者がひたすら成功し続けていく話で、一切教訓めいたものがないのも素晴らしいと思いました。

羽田……嬉しいです。そういう小説を目指してますから。

江連……小説家として、何か示唆的な言葉や、教訓を語りたい欲にはかられませんでしたか?

羽田……なかったですね。小説の胆は、文章の表現の面白さなので。説教してもしょうがないですし、ストーリーラインを強くしても、小説じゃなく映画やドラマのほうが、もっと上手くできるんじゃないかと、僕個人は思います。逆に、文章単体で面白さを提供できるのは、小説ならではの特性で、小説の使命でもあります。だから何も教訓がないっていうのは、すごい褒め言葉です。何にも残んないけど、何だか読んじゃうみたいなのが、小説としては最高の形でしょう。

江連……たしかに教訓はないけれど、最後までずっと面白かったです。

吉野……一方で、ひとつ疑問があります。Kは新人女優の富美那とは、性交を重ねた女性たちのなかで、ほぼ唯一きちんと恋愛関係になります。なぜ彼女だけだったんでしょうか?

羽田……注意深く読んでいただけると、真相がわかるかもしれません。Kは富美那とは、なかなかセックスに至りませんよね。やっとセックスできても、ほかの女性とのセックスは主観的な絵が思い浮かぶのに、富美那とは俯瞰した、AVを見ているかのような映像しか、思い浮かばないんです。Kはずっと、なんでこんな美人と付き合えちゃっているんだろう? と疑問を感じています。それは疑問ではなく、本当に付き合っていないかもしれないし、そもそも成功しているKの現実が本物かどうかも確証がない。富美那の存在は、現実かフィクションかわからない、『成功者K』の並行世界の象徴ともいえます。

江連……なるほど。それで、あの後半の展開になるのですね。富美那が妙な態度で、笑って立ち去るシーンとか、ぞっとしました。

吉野……ぜんぶKの実体験なのか妄想なのか、よくわからない感じが、いまの羽田さんの現実とも重なり、複層的に『成功者K』の面白さが増していきます。

羽田……純文学的というより、量子力学ですね。無数の可能性が分岐していって、無数の並行世界が同時に進んでいるのが、この世界なのだという解釈で書き上げました。ここへきて、デビュー作の『黒冷水』に戻ったような気がしますね。自分はやっぱり、小説でメタ的なことを、いろいろ工夫してやりたいんだなと。芥川賞を獲って環境は少しは変わったかもしれませんが、小説家の根っこの部分は、まったく変わっていないと、今作で強く認識しました。

芥川賞を獲ってからのほうが自由に

羽田……自分は芥川賞を狙っているつもりはなかったんですが、一時期は文芸誌向けの200枚前後の作品を書いてばかりいました。でも受賞して、無意識の縛りから解放されたいま、自分を煮詰めた汁のような作品を、ようやく書けたという実感があります。

江連……そういう小説、私は大好きです。これからも期待しています。

吉野……今回の『成功者K』が、芥川賞作家としての歩みの始まりになります。気負うというか、構えている部分はありますか?

羽田……全然、構えてないです。小説家のスタンスは、むしろ逆かもしれません。とりあえず芥川賞っていうだけで、ちやほやしてくれる人が多いのは事実です。自分も他の業界に対しては、なんとか賞を獲ったような商品を買っちゃったりします。獲った当事者にはそのつもりがなくても、賞にはやっぱり権威はあるんだろうなと。良くも悪くも今の僕は芥川賞の権威に守られているところはあると思う。だからこそ、好きにやっちゃえばいいやと。変に構えていても、いいものが書けるわけではないですからね。少し前の年収200万ぐらいでマンションのローン返済に悩んでいた、売れない純文学作家時代より、自由にやっている感じがします。

 

(構成/浅野智哉)
 

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