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報道をとりまく現状が執筆の動機に

内田……中山さんはどの作品も担当編集の方からのリクエストに合わせて書かれるそうですが、『セイレーンの懺悔』ではどんなオファーがあったのでしょうか?

中山……小説を連載する「きらら」は女性読者が多いということだったので、「女性が主人公の職業モノ」というご依頼をいただきました。いま女性店主が日常の謎を解いたりするようなほんわかとした小説が流行っていますよね。でも僕が女性を主人公にして書くのなら、そこはあえてハードな内容のミステリがいいだろうとプロットを立てていきました。

佐伯……だからこの小説のヒロイン・朝倉多香美は帝都テレビで報道番組を担当する新人記者の設定なんですね。しかも不祥事により番組は存続の危機にあり、先輩記者の里谷と一緒にスクープを狙っているという状況でした。

中山……長らくマスコミを主体にした小説が発表されていないと感じていましたし、ちょうどその頃、いじめやDVなどの家庭問題をマスコミが執拗に追いかけて二次被害が起きたこともあり、報道を舞台にした社会派ミステリに決めました。
 この小説の連載が終わった頃に、大崎梢さんの『スクープのたまご』が刊行されたんです。彼女の作品を読むと、報道というネタは同じでも、書く人間の性質が違うとこんなにも印象の違う小説になるんだなと思いました(笑)。

内田……読者としてはこの「セイレーンの懺悔」というタイトルにも魅かれるものがありますが、これは中山さんがつけられたのですか?

中山……最初の4作品以外はすべて自分でつけていますが、この作品はこのタイトル以外に考えつかなかったですね。なぜギリシャ神話に登場するセイレーンが悔い改めるのか。セイレーンという名前をタイトルに持ってきたからこそ、普遍性を持たせることができる。この作品で選んだテーマは、いまここにある一過性の問題ではなく、もっと広義的に十年二十年後にも残るものだと思っています。

耐えなくてはいけない闇の部分

佐伯……女子高生誘拐事件が発生し、報道協定が結ばれるなか、刑事から少しでも情報を引き出そうと多香美と里谷は奔走します。ふだん私たちからは見えない報道の舞台裏が細かく描かれていましたが、取材などされたのでしょうか?

中山……毎日、僕は事務所と書店を往復するような生活をしていて、どの作品も取材などは一切していません。基本的にすべて僕の想像です。

佐伯……資料だけで書かれているんですか?

中山……資料もないんですよ。記者クラブがどういう構造で、スクープを狙う記者の心情はどういったものなのか。以前読んだ元通信社の方のインタビュー記事が頭の中に残っていましたので、わざわざ資料にあたることもなかったです。

内田……これだけ小説にリアリティがあると、たくさんの資料を長時間読み込みながら執筆されているのかと推察してしまいますが……。

中山……報道協定に関しても『天国と地獄』や『誘拐報道』といった誘拐事件を題材にした古い映画の内容を覚えているので、こういった事件が起きたときのマスコミと警察の動きが自然とわかっちゃうんです。

内田……本当に驚かされるのですが、いままで観てきた映画の内容を、中山さんはぜんぶ記憶されているんですよね。

中山……1980年代は邦画も洋画も盛んな時代でしたが、ビデオになって発売されることはなかった。これを逃したらもう一生観られないかもしれないと一心不乱に観ていたら、自然と詳細を覚えているようになっていて(笑)。物書きになったことで、これまでの蓄積がとても役に立っています。

佐伯……見聞きされたことを広げて小説を書かれるから資料いらずなんですね。

中山……誘拐事件が起きたときの情報の出し方などは、警察の立場を考えて予想していきます。警察の広報の人間が記者クラブにどういったスタンスで対峙していくのがベストか。僕の場合、映画や書籍から得た知識から推測して書いていくと、だいたい現実とぴったり合ってしまうんです。

内田……そこまでぴたりと当たってしまうと、ちょっとゾッとしますね(笑)。

きらら……誘拐された女子高生は、その後、遺体で見つかり、多香美たちは被害者のクラスメートへの取材から、被害者がいじめを受けていたという証言に辿りつきます。多香美にはいじめが原因で妹を亡くした過去があり、仕事とはいえとても辛そうでした。

中山……いくら憧れて就いた仕事でも、なぜこんな取材をしなくちゃいけないのかとイヤになることもある。実際に報道の仕事で修羅場を経験した人たちが手に取るとしたら、そういった心情まで描かないと嘘だと思いました。どんな職業でも100%好きというわけにはいかなくて、自分の信念とは違っても耐えなくてはいけない闇の部分はありますよね?

佐伯……闇の部分ですか。

中山……書店員さんだってぱっと見は、きれいな制服を着ててきぱきと本を運んで、楽しそうに接客をしています。でも物書きになってからバックヤードに入らせていただく機会が増えると、いろいろなメモや張り紙、積まれたダンボール箱からみなさんの鬱屈がぼおっと透けて見えてくる(笑)。どんな職業にも闇がある。それを抱えたうえでヒロインが一人前になっていく過程を描きたかったんです。

内田……良質なミステリでぐっと引き込みつつ、お仕事小説という側面にも深く思いを込めて書かれていたんですね。

中山……僕も長いことサラリーマンをやっていましたからね。

短い言葉だと本音の部分しか出にくくなる

佐伯……取材を進めるうちに主犯格を突き止めた多香美たちは犯人に迫る報道をしましたが、これは大誤報になってしまいました。責任を取る形で里谷だけ局を離れますが、この里谷が多香美にいう言葉がどれも格好良かったです。

中山……やはり女性が主人公だと、イケメンでなくていいから、言葉はきつくても指導してくれる男性の先輩がいないと話が少しも転がらないんですよね。

きらら……逆に里谷とは旧知の仲の刑事・宮藤はイケメンの設定ですが、死体を見て吐いてしまうようなどこか頼りない多香美と衝突しがちでした。

中山……親代わりで多香美の甘さを容認してしまう里谷だけだと話が丸くなってしまうので、敵対する立場の刑事に里谷とは別タイプのキャラクターを与えました。一対一の平行線の関係で物語を進めるよりも、二人の人間の間を多香美が行ったり来たりするほうが展開しやすい。宮藤は僕のほかの小説にも登場させている刑事なので、リンクさせるためにもぴったりでした。

内田……そう、中山さんはすべての作品でなにかしらリンクさせながら作っていかれるんですもんね。愛読している読者はそこも楽しみなポイントです。

中山……『セイレーンの懺悔』で報道をテーマにすると決めたとき、まず『切り裂きジャックの告白』の帝都テレビを出そうと思いましたね。帝都テレビはとんでもないことをやりましたから、お叱りを受けるはずですから(笑)。

佐伯……この作品では女子高生の10代特有の感情の描写が巧みでした。どんなことでストレスが溜まったりするのか。男性が書かれたものなのに、共感できる部分が多かったです。

中山……これも想像なんです。最近の子どもたちは、辛抱がきかなくてすぐキレたりする。言葉遣いを聞いていても危なっかしい子たちが、ある環境に置かれたらどんな気持ちになるのか。想像ばかりで物を書いていいのかという意見はあると思いますが、ふだんの会話や見聞きしたものなど、想像するための材料が多くなればなるほど、想像力というのは確かなものになっていくはずです。

佐伯……電車の中やカフェで若い子たちの会話を聞いていたりするのですか?

中山……そういう場所で本当の気持ちを吐露することってないですよね。むしろTwitterをみたほうがいいかもしれない。作家の方のTwitterをフォローしているんですが、その作家さんをリツイートした人たちのツイートを読んだりします。Twitterはふだんよく使う言葉で溢れていますし、140字以内という短い言葉だと本音の部分しか出にくくなるんです。

能力よりも少し高めの仕事を要求される

佐伯……中山さんは「どんでん返しの帝王」ですから、この作品のストーリーも真犯人に辿り着くまで畳み掛けるように二転三転していきました。

中山……トリックや物語の構成自体にもどんでん返しを入れないと、最近は文句を言われてしまうので(笑)。リクエストにあったテーマに沿ったストーリーとキャラクターを考えたうえで、最終的にトリックをはめていくので、どんでん返しをしても小説全体に齟齬が起きません。幸いにして僕は、子どもの頃に読んだ本や映画のアーカイブからある程度、トリックのストックを持っているので、プロット作りに苦労しません。とくに『セイレーンの懺悔』はいつもより早くて二日で小説の全体像ができていました。

内田……引き出しの多さと深さ、そして抜群の記憶力。すべてが活かせているんですね。

中山……実際、トリックは出尽くされていて、トリックの組み合わせやバリエーションの違いで魅せていく。最初にトリックの素材をたくさん持っていたほうがいいですよね。
 この小説は事件が解決しただけですっきりするようなラストにはしたくなかった。最終的に悲劇の話にして、タイトルどおりになんらかの懺悔もしなくてはならない。でもそれだけだと読者がぐてんと疲れてしまうだけなので、最後には希望が持てるようには作っています。

佐伯……中山さんはデビューされてまだ六年ですが、コンスタントに作品を発表されていますし、もう大御所作家さんのようですね。

中山……『セイレーンの懺悔』が27作目になります。毎度、僕の能力よりも少し高めの仕事を要求されるので、なんとかしがみついてやってきたらこれだけの仕事量になりました。
 2017年以降も刊行スケジュールがぎっしりで2021年の段階で50作は超えているはずです。奇数月には中山七里の本が出ますので、平台に必ず僕の本が並ぶ感じですね。これからもどうぞよろしくお願いします。

 

(構成/清水志保)
 

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