アンケート






 第20回 道尾秀介 さん
 小説を書くときは、いつも自分以外の読者は想定していません
 

「きらら」12月号でも取り上げた全国の書店を巻き込む、道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』フェア。
出版社ではなく、書店主導型で始まったこの企画の中心人物・ときわ書房聖蹟桜ヶ丘店高橋美里さんと 企画に賛同した紀伊國屋書店新宿南店竹内純子さんが、当の道尾秀介さん自身にインタビュー。店頭で強力に推している道尾作品の秘密を解剖した。





短篇を書くことに飽きて長篇を書き上げた


きらら……道尾さんはネットを通じて作品を発表されていたそうですが、そこから抜け出して賞に応募したきっかけは何ですか?

道尾……自分のホームページで、犯人当て小説も含めてミステリのショートショートや短篇を書いていました。ただ書きなぐっていったものなので、あくまで習作ですね。当時は読むのも長篇より短篇が好きでしたが、いろいろやっていくうちに短い小説を書くことに飽きてきたんです。一度長い話を書こうと思って、出来上がったのがホラーサスペンス大賞に応募した『背の眼』でした。

高橋……この作品はホラーが得意ではない私でも読み進められました。物語の雰囲気にも感動しましたし、導入部からとても引き込まれるので、「この作家さんはこれからもっとすごい書き手になるのではないか」という強烈な印象を受けました。

竹内……オビの惹句にホラーを強調したことが書いてあり、怖い小説が苦手なので、実際に読むまでに私も間があいてしまいました。でも、いざ読んでみると1ページ目から最後まで一気に読めましたね。いい意味で京極夏彦さんの作品にも似ていて、単純にホラー小説とは言い切れないものがあると思います。

道尾……純粋にホラーだけだと作品に深みが与えられないので、本格ミステリの仕掛けとホラーの超常現象を融合させたものをやりたかったんです。せっかく活字で世界をつくるので、話の展開もミステリのネタ自体も、活字でしかできないことをやろうと思いました。これはいつも考えていることで、活字以外でも表現できるようなことは今後もやるつもりはありません。



「自給自足」のようなかたちで小説を書き始めた


竹内……『向日葵の咲かない夏』は最後に驚きが待っているミステリなんですが、私はそこが好きです。ただどうやってこの作品の良さをアピールしたらいいのかわからなくて、悩みながらも地道に店頭で積んでいました。

高橋……冒頭部分からいきなり救いようのない状態から話が始まるので、この先どうなるんだろう……と思いながら読みました。でも読み終わって、とても精巧につくられた物語で驚きました。

道尾……この作品は会社勤めをしていたときに営業の空き時間を使ってノートパソコンで細切れに書いていきました。出来上がるまでに2ヶ月くらいかかっていますね。執筆方法としてはいつも、まず最初に大まかな話の流れを決めて、あとの細かいところは書きながら考えていくんです。トリックなんかも、そうやって物語を組み立てていくうちに思いつくことが多いです。

きらら……ふだん書かれるときはどんな読者を想定されていますか?

道尾……自分以外の読者は想定していません。もともと「自給自足」のような形で小説を書き始めたので、他にやっている人がいるなら僕が書く必要はないわけですし、一人の読者として「こういうものが一番読みたい」と思うものを書いています。それでも『向日葵の咲かない夏』を発表したころはまだ世間での評判が気になって、ネット検索して感想を見たりしていました。すると、すごく気に入ってくれた人もいれば、ぼろくそに書いている人もいる。結局みんなに喜ばれるものは書けないんだなあと改めて思いました。反響を気にしすぎると、かえって作風がはっきりしないものになってしまうので、いまは書評も読みませんし、内容も純粋に自分の書きたいものを書いています。



書くための現地取材は基本的にしない


きらら……『骸の爪』は『背の眼』の続編ですね。

道尾……『背の眼』を書き終えて、まだこの登場人物たちが動けるんじゃないかという気がしたんです。僕の中では、キャラクターの役割を全うしていないまま終わっていたので、同じキャラクターを登場させる話をつくることにしました。

竹内……いきなり血を流している仏像が出てきたりして、とても印象的な作品でした。一気に謎が解かれていくのも圧倒されますね。

高橋……ミステリ好きとしては、こんな素晴らしい作品を読めて嬉しかったです。驚かされましたし、悲しかったり痛かったりしました。

きらら……この作品では仏所などが出てきますが、やはり取材は緻密にされるんですか?

道尾……もともと神社仏閣などは好きなのですが、書くための現地取材は基本的にしません。僕が実際にこの目で見ても、読者はその景色を見ていないわけですから、どうしても視点がずれて、逆に臨場感が薄れちゃう。ですからたとえば神社や病院のシーンを書くときはあえてそういうところには行かないようにしています。書き終えたあと、書いたことに間違いがないか確認しに行くんです。



初めて書いた青春小説は楽しかった


竹内……『シャドウ』は、ミステリを読みなれている読者からすると、子どもが主人公だとなにかあるんじゃないかと身構えてしまうところがあると思うのですが、それでもトリックにやられてしまって悔しかったです(笑)。

高橋……うまくはぐらかされちゃうんですよね。道尾さんはこういうことをやる人だという刷り込みがあるぶん、「これはなにかの仕掛けなんだろうか?」と勘ぐってしまうんです。作品全体に伏線がきれいに張られ、最後にたたみかけるように謎が解けるのには感動しました。新作でこれだけ堪能させていただいたので、次もやはり期待させてもらっています。

道尾……『向日葵の咲かない夏』のときに、親に虐げられた子どもの存在が残酷すぎるとたくさんの人に言われました。でも「救い」を書くには、マイナスの感情をきちっと書いていかないと、どうしても「ちょっとした救い」の話しか書けないと思うんです。『シャドウ』では、僕が書きたかった「救い」を読者がわかってくれたんだなという手応えがありますし、こういうものを描く際のさじ加減もなんとなく板についてきたように思います。

高橋……『シャドウ』を読んだとき、『向日葵の咲かない夏』を読んでからのほうがこの作品をより楽しめるように感じました。どちらから読み始めても、道尾さんの仕掛けた罠にかかるでしょうけど(笑)。どちらも楽しんでほしいなあという気持ちで、道尾さんの作品を推す「『向日葵』祭り」を始めました。おそらく小説の分野で全国の書店が連動してひとりの作家さんを推していく動きは初めてだったと思うんですよね。これから出る道尾さんの新作もこの流れに乗せて売っていきたいですね。

竹内……作家の方々は受賞作はすごい注目を集めますが、2作、3作と続くうちにあとから出る新しい方々に押されて店頭でのパワーが落ちてしまいがちです。この動きのように自分が好きだなと思った作品は、どんどん店頭で推していけたらお客様に本を選ぶ幅を広げていただけると思うので、今後の道尾さんの作品につながるように頑張りたいです。

きらら……今後の執筆の予定を教えてください。

道尾……携帯サイトで連載していた『片眼の猿』が2月に単行本になります。これはメッセージ性を強調した作品ですね。

高橋……ふだんはどんな小説を読まれますか?

道尾……トリックがかぶってしまったら困るので、一応ほかの人が書いた作品もチェックしますが、ミステリ作品はむしろ読まないほうです。好きな作家は久世光彦さんや玄侑宗久さんなど、ミステリ作家ではないんです。最近流行りの青春小説というものも読んだことがありません。でもこのあいだ、主人公が恋とかしちゃってる青春小説を初めて書きました(笑)。ある大きな仕掛けが隠されている本で、ひとつのギミックとしてキャラクターを立てる必要があったんですよ。自転車便のバイトをしている男の子が主人公で、大学生の4人組が出てきます。ふだんミステリを読まない人も楽しめるし、たぶんいままでの作品のなかでこれが一番読者層が広いんじゃないかと思います。

きらら……初めて青春小説を書かれてみていかがでしたか?

道尾……それが、すごく面白かったです。書いていて純粋に楽しかった。僕が大学生のころは恋愛に携帯電話というツールがなかったので、それがあるいま、みんなはどんな恋愛をしているのか。そのあたりをあれこれ想像しながら書きました。

きらら……最後に書店員のみなさんにひとことお願いします。

道尾……雑誌や新聞にインタビューや書評が載っても、全然動いてくれなかった本が、書店員さんが推してくださったことで目に見えて部数が伸びました。本当に嬉しかったし、今回のことで書店員さんの力を実感しました。本当に感謝しています。


(構成/松田美穂)



道尾秀介(みちお・しゅうすけ)
 1975年東京都生まれ。2004年、「背の眼」で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞してデビュー。著書に『向日葵の咲かない夏』(新潮社)『骸の爪』(幻冬舎)『シャドウ』がある。