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  第83回 瀧羽 麻子さん
  みなさんに私が書いた登場人物たちを
   応援していただけたらとても嬉しいです。








京都を舞台に文系女子と個性的な理系男子とのゆるやかな恋模様を描いた『左京区七夕通東入ル』で、「ダカーポ最高の本! 2010」では女子読み恋愛小説第1位に選ばれた瀧羽麻子さん。昨年、文庫化されたデビュー作『うさぎパン』も版を重ね、ファンを増やし続けている。『左京区七夕通東入ル』の姉妹編『左京区恋月橋渡ル』が刊行間近の瀧羽さんに、啓文堂書店多摩センター店西ヶ谷由佳さん、八重洲ブックセンター本店平井真実さん、三省堂書店営業本部内田剛さんが、女性読者の心をくすぐる作風の秘密を探りました。


自分のできなかったことを花ちゃんが体験


きらら……「きらら」の人気連載(08年1月号〜09年3月号)だった『左京区七夕通東入ル』が今月文庫化されましたね。京都の大学に通う大学四回生・花の視点で描かれた恋愛小説ですが、まず小説の舞台に京都を選ばれたのは何故ですか?

瀧羽……私は生まれが関西で、大学時代を京都で過ごしました。東京と違って京都では大学の近くに下宿している学生が多く、とても狭い範囲で生活が成り立っています。その独特な濃い世界がまず小説の舞台に合うように思いました。

平井……文系女子の花ちゃんは、偶然参加した合コンで出会った数学科のたっくんに恋をしますが、本当にかわいいんですよね。ちょっと冴えない理系男子のたっくんも純粋な感じがして、大学生気分を思い出しながら読みました。

瀧羽……これまでの自分の人生を振り返ってみると、京都での大学生時代が一番楽しかったんです。ただ現実はあまりきらきらしたものではなくて、花のように恋愛でウキウキしている感じも全くなかったですね(笑)。作品に流れる京都の雰囲気は、私が味わったものだと思うのですが、作中で花が過ごす大学生活は、自分のできなかったことをかわりに体験してもらっているところがあります。

平井……以前、『はれのち、ブーケ』を刊行された際に瀧羽さんにお会いしましたが、花ちゃんと瀧羽さんのイメージがぴったりで驚きました。

瀧羽……そうですか!? 私はけっこう気が小さいし慎重派なので、花とは似てないですよ(笑)。自分と性格の近い人を書くと、つい自己弁護してしまうところもあってやりにくいんです。花のように自分とは遠い性格の人物のほうが、客観的になって冷静に描けるように思います。花を書く時はわりと無理やりテンションを上げて、恋に夢中になる気分を想像しながら、必死に書き上げました。

西ヶ谷……数学科のたっくんが住む学生寮には、ヤマネ君とアンドウ君という、たっくんとは違った意味で個性的な理系男子がいます。京都の学生って本当にこんな感じなのですか?

瀧羽……本当にエキセントリックな学生が、私のまわりにはけっこういました。京都の、特に理系の大学生は特殊な感じがします。タンパク質の研究のために大腸菌を育てている友達がいたんですが、冷蔵庫に卵の白身が入った容器がずらっと並んでいて、なんだか怖かったですね(笑)。

内田……僕はバリバリの文系男子だったんですが、確かに少し変わった学生はいますよね。瀧羽さん自身が学生時代に実際に会った人をモデルにされていたりしますか?

瀧羽……確固としたモデルがいるわけじゃなくて、こういう人がいたら面白いだろうなあと、現実にいそうな人を登場させています。

きらら……終盤の大学の卒業式のシーンでは、たっくんやヤマネ君、アンドウ君の外見もよく伝わってきます。瀧羽さんの中では登場人物の細かいところまでが出来上がっているように思いました。

瀧羽……登場人物の見た目や性格も、書き始めた時にしっかりとしたイメージがあって、自分の中では世界が出来上がっていました。自分で書いておいておかしな感じなのですが、とくにヤマネ君とアンドウ君のことは大好きで(笑)。二人のことを書き出すとつい長くなってしまって、花とたっくんの恋愛の本筋とは関係ない横道にそれがちになってしまったくらいです。





ラブストーリーでもあり、卒業の物語


西ヶ谷……大学生の時に京都に一度だけ行ったことがあるのですが、京都という街は異空間のように感じられるところがありますよね。花ちゃんとたっくんのデートの様子から、タイトルにある「七夕通」が実際にあるように思えるくらい、京都の街並みがすんなりと想像できました。

瀧羽……左京区自体は私が通っていた大学から山のほうまで含まれるような広いエリアで、たくさんの学生が自転車でけっこう遠くまで移動しているようなところなんですよ。

内田……花ちゃんとたっくんも自転車で移動する場面もあって、自転車で風を切るような気持ちよさや空気感が作品全体に流れていますよね。

平井……二人が立ち寄るタルトのお店は、実際にあるんですか?

瀧羽……はい、タルトのお店や花がアルバイトをしている古着屋さんも実在のお店を思い浮かべて書いています。大学の近くのカフェも出てきますが、読んでくれた友人はどこのお店がモデルかわかっていました。この小説は私が京都で実際に見たものに、そこにあってほしかったものを重ね合わせてできた気がします。

きらら……その花ちゃんのアルバイト先「ソレイユ」の店主・陽子さんは、目標としたくなるような素敵な大人の女性ですね。

瀧羽……花はそれまでトントン拍子に生きてきた女の子です。目の前にあることをそつなく順調にこなしながらも、いざ大学を卒業する時期になって、将来の夢もなく自分を見失ってしまう。大人になるとはどういうことなのかイメージできていなかったんです。そんな花をサポートしてくれるきちんとした大人の女性として、陽子さんを登場させました。『左京区七夕通東入ル』は花とたっくんのラブストーリーであると同時に、一人の女の子の卒業の物語でもあると自分では思っています。





誰しも初恋はけっこうロマンチック


きらら……最新刊『左京区恋月橋渡ル』(「きらら」10年9月号〜12年3月号連載)は、大学院生になった山根君を主人公にした姉妹編です。花ちゃんを主人公にした続編の形にはされなかったんですね。

瀧羽……『左京区七夕通東入ル』を刊行した時に書店を回らせていただいたのですが、ヤマネ君とアンドウ君が大人気だったんです。自分も大好きなヤマネ君を主人公にした別の小説が書けるんじゃないかと、つい調子に乗ってしまったというのが本当のところです(笑)。

平井……「七夕通東入ル」の時は、ヤマネ君とアンドウ君はカタカナ表記でしたが、この作品では漢字になっていますね。

瀧羽……「七夕通東入ル」では花ちゃんの世界から見た二人なので、カタカナのほうがしっくりきました。実際に友達の友達は名字しか知らなかったり、漢字でどう書くのかを知らなかったりすることもありますよね。「恋月橋渡ル」は山根君にとても近い三人称で描いたので、視野が広いぶん、漢字表記のほうが合うように思いました。
この作品は三人称で書いたのがよかったのか「七夕通東入ル」よりも手心を加えずに書けた気がします。これが一人称で「僕」とやっていたら、またちょっと違った物語になっていたかもしれません。

内田……見本本の段階で読ませていただきましたが、前作を読んでいない方にも楽しんでいただける小説に仕上がっていますね。山根君は、美しい女の人とドラマチックな出会い方をして、まるで雷に打たれたように恋に落ちます。瀧羽さんにも実際にこんな経験があるんですか?

瀧羽……いえ、残念ながらないです(笑)。でも初恋って誰にとってもけっこうロマンチックなものですよね。とくに山根君は奥手で恋愛慣れしてない男の子なので、出会い方を極端にドラマチックなものにしたかったです。

内田……初恋の不器用さがよく出ていますよね。山根君の初恋には、こちらが苦しくなってくるくらいのリアリティがありました。男性の僕からすると、分刻みでデートプランをたてる山根君の気持ちがとてもよくわかります。

瀧羽……この作品では、初めて人を好きになることを知ってしまった男の子の話を書きたかったんです。好きな人のことを考えただけで胸が苦しい、彼女といると全てが新しく見えて楽しい、でも些細な失敗一つが本当に重たくてつらい。ただ好きな人と一緒にいるだけで、かけがえのないものだと感じられた初恋を、みなさんに思い出していただけたら嬉しいです。

西ケ谷……「七夕通東入ル」の花ちゃんとたっくんが、この「恋月橋渡ル」にもちょこちょこ出てくるのがいいです。とくに花ちゃんは山根君に的確なアドバイスをするいい役どころで登場するので、両方を読んでいる身としてはさらに楽しいですね。実際に山根君のような男の子の友達がいたら、私も花ちゃんのようにお姉さん目線でついかまってあげたくなるように思いました。





より京都に根ざした物語になるように


内田……「恋月橋渡ル」では葵祭や大文字といった京都らしい行事が出てきますし、お花見や蛍の鑑賞会のシーンでも古都・京都を感じられてよかったです。

瀧羽……「七夕通東入ル」では伝統行事などを出していなかったぶん、この作品ではより京都に根ざした物語になるように盛り込んでみました。

きらら……山根君たちが住む学生寮のことが、この小説では詳しく書かれています。寮長や料理長といった新しい登場人物も出てきて賑やかですね。

瀧羽……花からの目線だと寮の中のことを描くのに限界がありましたが、この作品では生活の場である寮を軸にして書くことができました。でもきっと大学の寮に料理長はいないのかな。実は寮の中に入ったことすらないので、そこは完全に創作です(笑)。

平井……朝はラジオ体操から始まるというのがいいですよね。実際にやってほしいと思いましたもん(笑)。

瀧羽……そこだけで通用するルールに、なぜかみんなが疑問に思わず自然と従っているのって、周りから見るとなんだかおかしいですよね。山根君たちが過ごしている大学の研究室など、特殊な場所を思い切り描けて楽しかったです。

きらら……山根君たちの寮の後輩・寺田君もいいキャラクターですね。ゲームが大好きでずっとやっている姿がかわいいです。

瀧羽……後半に出てくる法律を勉強している先輩も、初めは軽めに登場させるつもりだったんですが、だんだんと寮を舞台にした比重が大きくなってきてしまって(笑)。独特な寮を形成している寮長や寮生一人ひとりが背負っているものまで書きたくなってしまいました。

西ケ谷……寮長は予言めいた発言をしたり、どこかミステリアスなところもありますね。その寮長と山根君がラストのほうで交わす会話がよかったです。この作品は初めて恋をしたことで、少年が大人になっていく物語だと思いました。

内田……そう、山根君の成長ぶりが見られますよね。「七夕通東入ル」での卒業を経たその先に、「恋月橋渡ル」の成長がある。失礼を承知で言いますと、作品自体も「七夕通東入ル」からものすごくステップアップされていて、またいい作品に出合えました。

瀧羽……ありがとうございます。これからも日々鍛錬していきます。

きらら……姉妹編を読ませていただいたばかりですが、これからもこの「左京区」シリーズを読み続けたい気持ちでいっぱいです。

平井……安藤君が主人公の小説を今度は読みたいですね。雨の中、よもぎを採りにいく友達思いの安藤君がとても好きです。食いしん坊で料理上手な男の子だから、料理本のようになりそうですが(笑)。

西ケ谷……瀧羽さんのデビュー作『うさぎパン』にもおいしそうな料理がたくさん出てきますよね。おいしいものが出てくる小説って、いい作品が多いんですよ。

瀧羽……食べることが大好きなので、つい食べ物のことを長く書いてしまうんでしょうね(笑)。自分の好きなものを小説にしているのですが、書店員のみなさんに感想を聞かせていただくととても励みになります。私が書いた登場人物たちをみなさんに応援していただけたらとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

  






(構成/清水志保)



瀧羽 麻子(たきわ・あさこ)
1981年兵庫県生まれ。京都大学卒業。2007年「うさぎパン」で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞。著書に『うさぎパン』『株式会社ネバーラ北関東支社』『白雪堂』『左京区七夕通東入ル』『はれのち、ブーケ』、共著に『あのころの、』(「ぱりぱり」所収)。最新刊に『左京区恋月橋渡ル』がある。