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読めば人生をもっと彩り豊かにしてくれる
目利きの書店員さん一押し本が一挙勢揃い
《1》 今月飲むのを我慢して買った本
ジュンク堂書店新宿店(東京)村尾啓子さん
◎二五年経ってもお互いを最高と言い合える『銀婚式物語』の陽子さん正彦さんにメロメロ。
お酒を飲まずとも、頭ぐるぐるの酔った気分にさせてくれる本を紹介します。
まずは町田康さんの『人間小唄』。
はちゃめちゃな展開で気付くと異世界までぶっとばされてる感があるのですが、最後は落ち着くところに落ち着くというなんとも凄まじい内容です。
そしてなにより、文章がすごい。
あまりにパンクな表現とテンポに“?”になっているとどんどん置いていかれます。脳天ぐるぐるになること必至です! これはかなり悪酔いできます。
次に多島斗志之さんの『黒百合』を。
淡々と、非常に淡々と、美しい描写で物語が進んでいくので全くミステリー作品を読んでいる感覚がなかったのですが、終盤急に作家さんの術中にまんまとはまっている自分に気付かされ、ぐあ〜っとなりました。あまりにも悔しくて、読み終わると同時に読み直しましたが、やはり同じ感覚につかまり、まんまと。
最後に新井素子さんの待ちに待った新刊『銀婚式物語』。まあ、要するにタイトルを裏切ることなく銀婚式を迎えた陽子さんと正彦さんのこれまでの二五年が描かれたお話なのですが、前作(というにはあまりにも前ですが……)『結婚物語』で一旦のゴールインを果たした二人のその後の物語です。猫のこと、家族のこと、家のこと……二五年経っても変わらずお互いに“最高”と言い合える二人にもうメロメロです。あ、この度『結婚物語』もめでたく文庫化されました。こちらも必読ですっ! 『新婚物語』も復刊してくれないかなぁ。
《2》 当店の売れ行き30位前後にいる小説
三省堂書店岡山駅店(岡山)野上美佳さん
◎「奇跡」という名の宝箱に見事なトリックで陰謀や欲望が隠れている藤木稟さんの小説。
発売されてかなり経っているにもかかわらず、当店の販売ランキング上位に入っているタイトルとしてまずこの一冊をご紹介。
『迷宮』(清水義範著)。「殺人事件が起きて、犯人を警察や探偵が追い詰めていく」そう思って読み始めたら、あっという間に著者の仕掛けた迷宮にはまってしまう。
物語は、実験治療室から始まる。記憶を失った「私」は、治療と称してある殺人事件の記録を読まされる。それは犯人への調書であったり、事件の核心に迫ろうとした週刊誌の取材記事であったりした。読者は、あらかじめ犯人を知った上で「私」が誰で、物語にどのくらい影響しているのか考える必要がある。多方面から語られる事件の見解は、読者を翻弄し更なる迷宮へと誘う。しかし、最後には思わず苦笑がこぼれてしまう異色ミステリーであった。
「いつも」のミステリーを読んでいるあなた。この迷宮への招待状を是非受け取って頂きたいと思う。
二冊目は、ライトノベルでの人気が高く、文庫としても発売になった『彩雲国物語』(雪乃紗衣著)。
彩雲国中でも名門である紅家直系の姫・秀麗は、貧乏であった。父・邵可が仕事に熱中しすぎるからだ。しかし邵可は人柄がよく、秀麗も貧しいが作法をわきまえた気立てのよい娘に育った。その秀麗に、ある日王に次ぐ位階の人物が訪ねて来た。突然の来客に驚く秀麗だが、莫大な謝礼と共に頼み事をされる。二つ返事で承諾した秀麗だが、内容は「後宮に入って王の妃になり、政をしない王を変える」というもの――。
大金が絡むとろくな事にはならない。秀麗の苦労が目に浮かぶようだが、真摯で前向きな彼女に王も応えるようになる。ライトノベルとは思えないとてもしっかりとした構成で、年齢問わず楽しめる作品である。
最後に、私のお気に入りの小説『バチカン奇跡調査官 黒の学院』(藤木稟著)をご紹介。
バチカンで「奇跡」を調査する神父の平賀とロベルト。世界中から寄せられる「奇跡」に対して本物か否かを判断する仕事であり、常に危険と背中合わせである。前半までは彼らの調査が困難を極め、なかなか真実が見えてこない。集中して読まないと大事な鍵を見落とし、何度か読み返す事になるかもしれない。しかし後半にさしかかると予想外の真実が顔を覗かせ、結末へ向けて一気に加速するのだ。
「奇跡」という名の宝箱に、見事なトリックで陰謀や欲望が隠れている。人間が人間であるが故に取る行動を、如実に示した物語だった。
《3》 私はこの本を1日1冊1すすめ
ジュンク堂書店広島店(広島)神車育子さん
◎
大島真寿美さんの『香港の甘い豆腐』は彩美が自分の意思で行動し成長する姿が爽快です。
『ビターシュガー』『ピエタ』と話題に事欠かない大島真寿美さん。私にとって昨年は、大島さんを追いかけ続けた一年でした。
大島さんの作品が児童書の棚にもあるのをご存じでしょうか。しかし、その内容は児童書の枠に留まらず、大人が読んでも充分に楽しめるものばかりです。
『ちなつのハワイ』は突然ハワイ旅行に行くことになった家族のお話。ちなつにとっては大喜びのハワイでしたが、他の家族は困惑ぎみ。せっかくのハワイの海を目の前にしても、受験勉強を続ける兄。そんな兄に遠慮して楽しめない母。母とケンカしてしまう父。その様子を心配そうに見守るおばあちゃん。でも、おばあちゃんはちなつにしか見えていません。家族はハワイを楽しむことができるのか。お話もさることながら、挿し絵にもご注目していただきたいです。
『香港の甘い豆腐』もYA向けらしく十代から楽しめる小説です。登校拒否ぎみの十七歳の彩美は、母親に連れられて半ば強引に香港へやってきます。まだ見ぬ父親に会うために。
戸惑いながら、ぶつかりながら、自分の意思で行動し成長していく姿は、読んでいて爽快です。私も十代の頃を思い出して力が湧いてきました。元気になる一冊。
最後に『やがて目覚めない朝が来る』。母の離婚を機に祖母である、元舞台女優の藪さんの家で暮らすことになった有加。その家に集う大人達との交流。大島さんの小説に出てくる人物はみな、かっこよくて魅力的です。いつも自由で楽しそうで、会話の中にも人生の重みを感じます。その言葉のひとつひとつが、私の中にも染み込んでくるよう。だけどこの小説に漂う空気は、少し切なくてもの哀しい。それは、誰にでも等しく目覚めない朝が訪れるからです。
私がこの小説で一番好きな所は、有加の言う「なにも藪さんだけが特別なわけでない」と最後に締めくくる場面です。人それぞれに特別な人生があると。
毎日普通に平凡に暮らしている私にとってそれは、光が射したような瞬間でした。今はもういない大切な人達のことを思い出し、切ないけれど温かい気持ちになれました。
ご紹介した三冊はどれも文庫で読める作品です。さまざまな顔を見せてくれる大島さん、これからの作品も楽しみです。
《4》 この小説家の作品は絶対に売りたい
岡森書店(三重県)岡森史枝さんほか
◎
平和な世に感謝しつつも、自問自答してしまう藤原ていさんの『流れる星は生きている』。
伊賀の山奥より、文芸チームが三人三様に紹介いたします。
『幸福な生活』の最大の魅力は、何といっても「最後の一行」でしょう。十八の物語が一冊に収まっていますが、どの物語も最後の一行、最後の一言に背筋が凍ります。この「最後の一行」がなければ『幸福な生活』であったのに、知らなくていい事を知った時、今までの平凡な日常がどれだけ『幸福な生活』であったのかに気付く。
……という意味なのでしょうか。二十頁もない短編ばかりですが、ひとつひとつの完成度の高さに驚きます。最後にオチがある事が分かってはいても、毎回ゾクッとさせる所が、さすが百田尚樹さんです。(清水真由)
次に奥田英朗さんの『オリンピックの身代金』。舞台は戦後日本の復興の象徴であるオリンピック開催に湧く東京。今とは違い東京と地方に大きな格差があった時代。“オリンピックを人質に身代金を要求する”。このとんでもないことを企てるのは東大経済学部の院生、島崎。東大を出れば順風満帆な人生が送れるものを……。犯人をよく言うのもなんだが、この島崎はとてもいい人で、加えてイケメンだったりする。 関わった人が助けになりたいと思わせる人物なのだ(読者としてもそう思う)。特に犯行のパートナーとなるスリのおじさんとのやりとりは絶妙、時に涙する。文庫で上下巻、それが苦にならないストーリー展開で、先が気になり一気読みしてしまう。(稲岡和美)
最後は『流れる星は生きている』。「母親」と呼ばれる立場になって、三年後にこの本に出合いました。著者の藤原ていは作家新田次郎の妻であり、藤原正彦の母であります。本著は、昭和二十年敗戦後の満州を、夫と引き裂かれながらも、地獄の様な苦難を生き抜き、幼子三人を無事に日本へ連れ帰ることに成功した藤原ていという一人の母親のノンフィクション小説です。当時の彼女は二十七歳。私から見れば、その年齢の若さに驚かされます。子供を正に全身全霊で守り、生き抜いていくその知恵と気力。同じ母親として、自分にどれ程の力が備わっているのか。今平和な世に生きていることを感謝しつつも、自問自答を繰り返してしまいます。最後の「あとがき」を読み終えたとき、ああこの本に出合えて良かった……と心からそう思えました。読み継がれて欲しい一冊です。(岡森史枝)
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